生きづらさの改善に不可欠! メンタライゼーションとは?

シリーズ メンタライゼーションで心を楽にする①

こんにちは。臨床心理士のひろせです。
メンタライゼーションという言葉をご存じですか?

メンタライゼーションとは、自分や他者の言動について、その心理的背景(心の状態、気持ち、意図、理由など)に思いを巡らせ、関連づけ、解釈すること。
(難しい言葉ですので、詳細は後ほどお話します)

不安、緊張、イライラなど感情のコントロールが苦手な人は、メンタライゼーション能力の低下が考えられます。
また、この能力は「周りに気を遣いすぎて疲れる」「些細な出来事を引きずって立ち直れない」というようなアダルトチルドレン、HSPさんにも非常に有益です。

そこで今回は、不快な感情の改善に不可欠なメンタライゼーションとは何か?をアダルトチルドレン、HSPさん向けにお話したいと思います。

エビデンスのある心理療法の一つに、メンタライゼーション能力の向上を目的とした治療(MBT:Mentalization-Based Treatment)という心理療法があります。 実際、私もカウンセリング内でMBTを取り入れてから、クライアントさんの症状改善、環境への適応が明らかにはやく、確かに効果があるなという印象を持ちました。

不安や緊張、イライラの改善にはメンタライゼーション能力が不可欠

アダルトチルドレンやトラウマ体験のあるHSPが抱える生きづらさの背景には、幼少期からの家庭環境、人間関係などの影響に加え、メンタライゼーション能力の低下も関係していると考えられます。

メンタライゼーションというと、はじめて聞く言葉で難しいと感じる人が多いかもしれません。
ですが実はこれ、誰もが持っている能力で、日々おこなっていることなんです。

例えば、職場の上司が不機嫌そうで険しい顔をしており、あなたが急に理不尽なことで怒られたとしましょう。
上司に対して、あなたは「何か悪いことでもあったのかな?」「あの仕事うまくいかなかったのかな?」あるいは「私何かした?」「私の仕事がうまくいってないからだ」などと考えるかもしれません。

このように多くの人が厄介な問題に直面したとき、あらゆる情報を手掛かりに問題の真相を考えます。そして最も妥当だと思われる見解に落ち着くと、不安、恐れなどの気持ちが収まってきます。

人はどのように心を育み、メンタライゼーション能力を発達させるのか?

メンタライゼーション能力には個人差があり、幼少期の影響を強く受けると言われています。
そして、メンタライセーション能力の高さを左右させるものとして、現実の見取り図という機能が深く関わっています。
ここでは、メンタライゼーション能力の高さを左右する現実の見取り図についてお話します。

生まれたばかりのころ、人は自分を認識していない

人は、生まれたばかりのとき、自分という存在を認識しておらず、言葉も理解していません。
そのため空腹、痛み、違和感などを感じたときは、体に不快な感覚のみが残り、養育者に泣くことでつらさを訴えます。

その一方で、母親などの養育者は、赤ちゃんの泣いている理由や心理状態を推測して、「あら、ミルク欲しいの?」「オムツかな?」「ここが痛いの?」というように赤ちゃんの心と体の状態を言葉にして伝えてあげます。(これを、赤ちゃんの状態を鏡のように伝え返すことから「ミラーリング」と言います)

このやり取りを繰り返すことで、赤ちゃんは養育者から聞いた言葉を取り入れ「この身体感覚はこのような意味なんだ」「この感覚、出来事はこうして解決できる」「これは深刻なことではない」と学習し、身体、自己イメージを広げます。

同時に、養育者や周りの人とのやり取りを通じて、最初は得体の知れなかった不快な感覚、出来事が対処可能であること、深刻な問題ではないことを知ります。そして、高まった感情を適切に静める方法を学んでいきます。

このやり取りは養育者との間だけに限りません。様々な人と接しながら、褒められる、指摘を受ける、違う考えに触れるといったことを経験することで、「自分ってこういう人間なのだ」と自己イメージが強化されていくのです。

自分、身体、社会などのイメージの集合体は、心理学的用語で「象徴」と言います。違う言葉で言うと、心が形成した「現実の見取り図」であると思ってください。

赤ちゃんは周囲の人たちとのやり取りから徐々に現実の見取り図(象徴)を獲得していきます。現実の見取り図(象徴)を獲得することで、例えば、お腹がすいたらごはんを求めたり、自ら食べ物を探すようになったりと、生じた問題の理解、不安のコントロール、解決を自らおこなえるようになるのです。

心の成長には、自主的な行動も非常に大切だと言われています。自主的な行動が、自力で問題に対処し気分を楽にできる喜び、達成感、高い自己肯定感につながるからです。

現実の見取り図をもとに現実を捉え、メンタライゼーション能力を獲得する

人は、自分や他者との間で起きた出来事を現実としてそのまま認識しているわけではありません。実際は、今までお話した通り、これまでの経験で形成された現実の見取り図(脳、心のフィルター)を通して現実を把握しています。そして、現実の見取り図をもとに目の前の出来事について、「こういうことがおきているのではないか?」などとメンタライジングを時折行うことができるようになるのです。

このように、人は自分の心の見取り図を通して現実を捉えているので、同じ出来事でも人それぞれ思うこと、感じることが異なってくるわけです。

ちなみに現実の見取り図(象徴)は、家族や友人関係、生活環境の影響を受けながら形成されます。

例えば、AくんとBくん、2人の子どもがいるとしましょう。

Aくんは、養育者に見守られながら、自ら好奇心を持って周りを探索し、また、様々な人と接しながら、様々な刺激やフィードバックを受け取ることで、自分らしさ、社会の性質を知りました。そして、それらを世界のイメージとして取り込んで現実の見取り図(象徴)が形成されていきました。

一方で、Bくんは、養育者から「部屋の中から出てはダメ、お外は恐ろしいことがいっぱいあるから」と過保護に育てられました。あるいは「外になんか行かないで、私に役に立つことをしなさい」「あなたは外に出ても成功できない」などと、きつく言われながら育てられました。限定された情報、養育者からの厳しい言葉などを世界のイメージとして取り込んで現実の見取り図(象徴)が形成されていきました。

Aくんの場合、家の中で大きな音がした、変なにおいがする、近所の人が来た場合などに、見取り図(象徴)をもとに「きっとあそこで何かが落ちたんだろう」などと解決に向けて冷静に対応できるでしょう。

しかし、Bくんの場合、大きな音がしても、部屋の外、踏み入れたことのない領域は、何が起きているのか全く想像がつきません。突然の出来事にどれぐらいの問題なのか?どう動いたらよいのかが分からず、不安だけがつのります。

この2人の現実の見取り図(象徴)はだいぶ異なっていることがおわかりいただけたでしょうか。

現実の見取り図(象徴)は、子どもの遺伝的な要因、環境的な要因などが複雑に影響し合っていますが、家庭環境をはじめとしたこれまでの経験から形成されるものです。私たちはその現実の見取り図(象徴)を通じて物事を捉えているのです。

メンタライゼーションを発揮すれば、物事を適切に捉えられる

心理的背景に思いを巡らせるメンタライゼーション能力をうまく発揮できると、現実に適切に対処することができます。メンタライゼーション能力を発揮しながら物事を捉え処理する状態を「メンタライジングモード」と呼びます。

※メンタライジング:メンタライゼーションの動名詞

メンタライジングモード

メンタライジングモードとは、空想と現実がバランスよくリンクし、自分と他者の言動の心理的背景に思いを巡らせ、うまく推察できている状態のこと。多角的に物事を捉え、過度なストレスや他者の強烈な攻撃に流されることが少なくなります。

例えば、身近な怖い上司に怒られたとします。メンタライジング能力をうまく発揮できれば「私って怒られるようなことした?」「あの人、いつでも誰に対しても怒っている」「他の上司だったらこんなことにはならない」「(上司の)抱えている仕事がキャパオーバーなんじゃないか」「他の人もこの上司とはうまくやれないだろう。むしろよく対応できている」など様々な視点から、最も妥当な捉え方を検討できます。おかげで強い不安に流さてしまうことはあまりありません。

陥りがちな偏った捉え方、3つのモードとは?

心理的背景に思いを巡らせるメンタライゼーション能力がうまく育まれなかったり、心理的に不安定な状態に陥ったりすると、物事を捉える際に偏った処理をしてしまいます。

これから紹介する、よくある3つの処理モードは、現実世界と現実の見取り図(象徴)とのつながり具合によって決まります。つながりのバランスが悪いほど感情調節が難しくなります。

目的論的モード

一つ目は、空想=現実と捉えてしまう「目的論的モード」です。空想の世界と現実が一体化してしまい、区別ができません。また、洞察力、観察力の低下から、言動の心理的背景をうまく考慮できていない状態です。

このモードでは、現実の見取り図(象徴)と現実とのズレが考慮されていないため、表面上の行動一つで、物事を解釈しがちになります。

「頼みごとをして断られたから、私のことが嫌いなんだ」とか「無視されたから、私のことを嫌っているに違いない」などと疑いなく考え、強い不快感を抱きます。

心的等価モード

「心的等価モード」も空想=現実の意味合いを含みますが、空想の世界が現実よりも勝ってしまう状態(空想>現実)です。

目の前の現実よりも、自分の空想が勝ってしまうため「この家には幽霊がいる」「みんな私のことが嫌いなんだ」「自分は生きる価値なんてないんだ」などといった考えが浮かぶと、その思いに浸食されてしまい、修正困難に。その結果、不安やイライラなどの感情コントロールが難しくなります。

ごっこモード(pretend mode

「ごっこモード」は、言動の心理的背景を知識としては理解できるのですが、現実とうまくリンクできず、分離してしまっている状態のこと。別の言い方をすると、現実の見取り図(象徴)と現実とが互いに独立し、うまく連携できていない状態です。

問題解決の理論、知識は理解できるけれど、実践の場面では、状況に応じてうまく活用できないといったことが生じます。

また極端な例ですが、ごっこモードのときは「飛び降りれば苦しみから解放されるかも」などとふと考え、現実感が抜け落ちてしまった結果、ケガのリスクなど忘れて飛び降りてしまうこともありえます。

メンタライゼーションモードは一度獲得したからといって、いつでも保持できるわけではありません。誰でも苦手な場面に遭遇すると、認知の柔軟性が損なわれ、偏った捉え方に陥りやすくなります。

偏った捉え方、処理モードは、現実の見取り図を修正し、メンタライゼーション能力を高めることで適切な捉え方に修正することができます。

ポイントは、感情に流されずメンタライジングモードを維持できるようになることです。どのような場面でも、メンタライジングモードを保持できるようになれば、強い心を手にしたと言っていいでしょう。

まとめ

今回は、アダルトチルドレンやトラウマ体験のあるHSPさん向けに、不安、緊張、イライラなど不快な感情を調節するときに重要であるメンタライゼーションという概念を紹介しました。自己理解を深める目的で、参考にしていただけたら幸いです。

次回の記事では、トラウマ体験のあるアダルトチルドレンやHSPさんはどのように心の働きが変化し、物事の捉え方、生きづらさに影響を与えるのか? そして最後の記事で、生きづらさの改善の仕方についてお話します。

当カウンセリングルームでは、メンタライゼーションに基づく心理療法もオンラインカウンセリングにておこなっています。

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